崩壊,アッシャー家の
『アッシャー家の崩壊』
エドガー・アラン・ポー著
ナレーター ウエイン・ジューン
宮下忠雄 聴訳
彼の心は掛かれる琴
触るれば鳴る デ・ベランジェー
まる一日じゅう,陰鬱な うす暗い もの音もしない日の,秋の,その年の,雲が掛かった,重苦しく低く,空に、私は通りすぎていった,一人で,馬に乗って,妙に寂しい地域を,田舎の。
そして、ようやく、私はたどり着いた、影が,黄昏の、迫ってくるころ,見えるところへまで,憂鬱な館の,アッシャーの。
私は知らない,どうしてなのかは、しかし、はじめて見たのだが,その建物を、気持ちが,堪えがたい陰鬱な、浸透していった,私の心に。
私は言う,堪えがたいと。なぜなら、その感情は、和らげられなかった からである,僅かによっても,あのなかば心地よさの,詩的であることによる,感傷が,心が普段は知覚する,荒れ果てた自然の表情からでさえ,荒涼としてもの凄いものの。
私は眺めた,情景を,私の前にある、その家を、そして飾りのない風景の姿を,その邸内の、荒れはてた幾つかの壁を、空虚な眼のような窓を、僅かの伸びすぎた菅草を、4・5本の白い幹を,朽ちた樹々の。
まったくの沈鬱さがあり,魂の,喩えることが出来ない,この世の感覚に,もっと適切に,酔いざめの気持ち以外には,耽溺する者の,阿片に、痛ましい移行,日常生活への、いまわしい降下,あのヴェール(覆うもの)の。
氷の冷たさがあった、沈みこみと、病みこみと,心の、救いようのない侘しさで,思いの、どんな刺激でも,想像力の、為しえない,何かに,崇高な。
何がこうさせるのだろう、私は立ち止って考えた、なんだろう,うち沈ませるものは,自分を,見つめているうちに,館を,アッシャーの?
不可思議だった,まったく解きあかせない、また私はうち勝てなかった,影のようないろいろの妄想に,群がり寄ってくる,私に,あれこれ考えているとき。
私は仕方なかった,落ちるより,満足しがたい結論に、そこには、疑いなく、組み合わせがあるのだが,まことに単純な自然物の,力を持っている,このように影響する,我々に、そして、分析することは,この力を、あるのだ,思考の中に,我々の深みを超えている。
可能だろうと私は考えた、違えるだけで,配置を,個々の事物の,この景色の、細部の,この画面の、十分であろうと,減少するか、きっと、すっかり無くすのに,与えている力を,もの悲しい印象を。
そこで、この考えにしたがって、私は近づけ,馬を,けわしい崖縁に,黒い無気味な沼の,たたえている,静かな光を,この家のそばに、見下ろした、が、身ぶるいするばかりだった,やはりもっと恐ろしくなり,前よりも、変形した逆さの影を,灰色の菅草や、気味のわるい樹の幹や、うつろな眼のような窓などの。
にも拘わらず、この屋敷に,陰鬱な、私は今、意図している,滞在しようと,何週間か。
その主人、ロデリック・アッシャーは、一人だった,私の気の合った友達の,少年時代の、が、長い年月がたっていた,私たちが最後に会ってから。
一通の手紙が、ところが、最近とどいた,私のもとへ,遠くの地域にいる,その地方の、手紙である,彼からの、それは、ひどく せがむような 書きぶりなので、仕方のないものであった,私自身が行くよりほかに。
その筆蹟(ひっせき、Manuscript )は、示していた,跡を,神経の興奮の。
その筆者は語っていた、急性の体の疾患のこと、精神の不調のことを,苦しめている,彼を、そして、心からの願いを,会いたいという,私に,彼の最良の実に唯一の個人的な友である、展望して,試みることを、その愉快な私との交遊によって、いくらかでも軽減を,彼の病気の。
書きぶりだった,すべてこれらのことやそのほかのことが伝えられている、明らかな真心だった,込められている,彼の要望に、それが与えなかった,私に,余地を,ためらいの。
私はそれに従って、応じたのである,すぐに、いまもなお思っている,たいへん奇妙な召喚と。
しかし、子供のころ、私たちはずいぶん仲のよい友達ではあったが、私は実際には殆ど知らなかった,この友達について。
彼の無口はいつも極端で、習慣的であった。
私は知っていた、しかし、彼のごく古い家柄は知られていたことを、遠い昔から、特別に鋭敏な感受性の存在によって、顕していた,長い時代を通じて,多くの制作で,優秀な芸術の、現われている、近年になっては、繰り返しの行為で,莫大な、しかし人目につかない慈善行為の、
一方では、熱情的な献身に,錯綜した美への,おそらく正統的な直ぐに理解される美にたいするよりも,音楽理論の。
私は知っていた,また,まことに注目すべき事実も、血筋は,アッシャー家系の、常に由緒あるものだったが,それは、けっして出したことがない,いつの時代にも,永続きする分家を、言い換えれば、全一族は続いてきた,直系の子孫だけで、常に、ごく些細な一時的な変化はあっても、そのように続いてきた。
この傍系の存在がない点だ、私は考えた、あれこれ進めながら,思考を、完全な一致があるのは、性格との,この屋敷の、備わっている性格と,人々に、また思いめぐらせた,ある得る影響について、その一方が、経過するあいだに,数世紀を、与えてきた,他方に、
この傍系の存在がないことだ、恐らく、相並んできた事柄であるが、そして結果として逸れずに伝わったこと,父から子へと,世襲財産が家名とともに、それらは、遂には、同一視されて,二つが、合同してしまった,本来の名を,領地の、奇妙な両方の意味にとれる名称に,「ザ ハウス オブ アッシャー」という。
名称は,含んでいるようであった、気持ちの中では,農夫たちの,それを使っている、両方を,家族と一家の邸宅との。
私は述べた、唯一の効果は,私のいささか子供らしい試みの、覗きこんだこと,沼のなかを、深めたことであった,最初の奇怪な印象を。
なんの疑いもないことだ、意識することが,急速な高まりを,自分の不合理な恐怖の、理由があるだろうか,その表現をしていけない? 寄与していた,ますます募らせることに,高めることを,恐怖感を。
そのようなことは、前から知っていたことだが、逆説的な法則である,すべての感情に通ずる,恐怖を元としている。
そして、あったかもしれない,ただこの理由からだけで、それは、私がふたたび上げたとき,眼を,本物のその家に,映っている影から,池に、湧き起ったのも,自分の心のなかに一つの奇妙な空想が、空想というのは、愚かしいもので、実は、私は記すにすぎない,ただ伝えるために,強烈な力強さを,情動の,悩ました,私を。
私は働かしたので,想像力を、ほんとうに信ずるようになった、この屋敷や地所のあたりには、垂れこめていると,ある気配が,特有な,屋敷などとその周囲に、
ある気配が、少しも類似しておらず,様子とは,天空の、その雰囲気は立ちのぼってきている,朽ちた樹々や灰色の壁やひっそりした沼などから、
不快で神秘的な靄(もや)が,どんよりして鈍い殆ど眼に見えない鉛色の。
振り落して,私の心から,夢だったに違いない考えを、私は調べてみた,もっと念入りに,ほんとうの様子を,その建物の。
その第一の特徴は、あろう,ひどく古いということで。変色は,歳月による、すごかった。
こまかな菌類が、蔽いつくしている,外側全体を,垂れさがり,こまかに縺れた蜘蛛の巣のようになって、いくつもの軒から。
しかし、これらのことは違っている,なにか異常な荒廃であることとは。
どの部分も,石細工の、崩れていなかった。
そして見えた,妙な不調和があるように、あいだには、依然として完全に適応していることと,その各部分が、ぼろぼろになった状態との,一つ一つの石の。
このことは、多分に、私に思い出させた,見かけだけは完全な古い木製品を,朽ちてしまった,永年のあいだに,どこかの見捨てられた窖のなかで,乱されずに,呼吸で,外気の。
この記しの他には,全体に広がっている荒廃の、しかし、この建造物は証拠を殆ど示していなかった,不安定であることの。
おそらく、眼は,念入りに観察する人の、見つけただろう,一つの殆ど眼につかない ひび割れを、それは延びている,屋根のところから,建物の前面の、這い下がり,壁を,ジグザグの形に、消えるまで,陰気な水のなかに,その沼の。
気付きながら,これらのことに、私は馬を進めた、みじかい盛り土道を,屋敷の方へと。
召使に,待ち受けていた、馬をとらせ、私は入った,ゴシック風の拱廊に,玄関の。
侍者が,足音も密やかな、そこからは導いてくれた,私を、無言のまま、通って,たくさんのうす暗い入り組んだ廊下を、私の行き先を,書斎へと,主人の。
多くのものが,私が出会った,その途中で、させた、なぜかは知らないが、高めることを,あの漠然とした情動を,私が既に述べた。
事物が,私のまわりの、彫刻,天井の、くすんだ掛毛氈,壁の、黒檀のように真っ黒な床、幻影のような紋章付きの戦利品などが、がたがた音をたてる,私が歩くにつれて、そんな品物だったが、それらについて、或いはそれに類したものに、私は見慣れてきていたが,自分の幼少のころから、私は躊躇しないが,認めることを,よく見知っていることを,これらのどれも皆、私はここで驚いていた,分かって,あまりにも奇怪なことが,いろいろな妄想の,通常の物の形が煽りたてている。
一つの階段のところで、私は会った,医者に,この一家の。
彼の容貌は、私には思われた、帯びているように,まざった表情を,卑屈な狡猾と当惑との。
彼は挨拶して,私に,狼狽しながら、通りすぎて行った。
そして侍者はさっと開いて,扉を、案内した,私を,いる所へ,彼の主人の。
その部屋は,私の入った、非常に広くて天井が高かった。
窓は、長くて細く、尖っていて、遠く隔たったところにあった,黒い樫の床から、ぜんぜん手が届かないくらい,内側からは。
弱々しい薄明かりが,真紅色の光の、射しこんで,格子形にはめてある窓ガラスを通して、ようにしていた,十分に浮き上がらせる,わりあい目につき易いものを,あたりの。
眼は、しかし、無駄に終った,視力が届くには,遠くの隅々や,その部屋の、あるいは奥の方に,丸天井になっている組子細工の天井の。
黒ずんだ壁掛けが、掛かっていた,壁に。
家具類は、大がかりで、わびしく、古びて、壊れかけていた。
たくさんの書物やいろいろな楽器が、あたりに散らばっていたが、それは出来ていなかった,与えることも,なんの活気を,この場面に。
私は感じた,呼吸しているのを,空気を,悲しみの。
気が,きびしい深い救いがたい憂鬱の、漂っていて、しみわたっていた,総てのものに。
私が入ってゆくと、アッシャーは立ち上がって,長椅子から,彼が横たわっていた,ながながと、挨拶した,私に,快活な親しさをもって、大分あるように,そこに、私は初め思った、誇張した愛想のよさが、
わざとらしい努力が,倦怠を感じている男の,人生に。
ちらと観るとすぐに、だが、彼の顔を、確信させた,私に,彼の完全な誠実さを。
二人は腰を下ろした。
そして暫く、彼がまだ話し出さないあいだ、私は見まもった,彼を,想いを込めて,なかば憐れみの、なかば怖れの。
たしかに、人間はいないだろう,こんなに恐ろしく変ってしまった、こんなに短いあいだに、ロデリック・アッシャーほど!
困難だった,私自身にさせるのは,認めるように,同一であることを,この蒼ざめた男と,自分の前にいる、あの友達とを,自分の幼年時代の。
それでも、特徴は,彼の顔の、昔と変らなかった,際だつもので。
死人のような顔色、眼,大きい潤んでいる輝いている,類いなく。
唇,すこし薄くひどく蒼ざめているが例えようもないほどに美しい曲線の。
鼻,優美なヘブライ型の、しかし、幅のある,鼻孔の,珍しい,そのような形のものにしては。
よい格好の顎,物語っている,出っ張ったところがないために,欠如を,意欲の。
髪の毛,蜘蛛の巣よりも柔らかくそして細い。
それらの特徴は、異常に広がっていることとともに,上部が,あたりの,こめかみの、形づくっている,全体で,容貌を,たやすくは忘れられない。
そしていま、すっかり誇張されていて、際だっていることが,これらの特徴の、そして、表情が,それらが以前に示していた、表わしていて,たいへんな変化を,私が疑ったほどの,誰に私は話しかけているのだろうと。
いまのもの凄い蒼白さと,皮膚の色の、いま不思議な光を帯びていることとが,眼の、なによりも、驚かせ恐れさせさえした,私を。
絹糸のような髪の毛も、また、伸びるがままにさせておかれた,まったく手入れもされずに、それが、乱れた小蜘蛛の巣の糸のように、漂っているのであったから,垂れさがっているというよりも,顔のあたりに、私は出来なかったのである,どうしても、結びつけて考えることが、この怪奇な容貌と、観念とを,当り前の人間という。
態度に,友の、私はすぐに気がついた,辻褄(つじつま)の合わぬことに、矛盾のあることに。
そして間もなく分かった、それが来ていることが,いつも続けている力弱い無駄(むだ)な努力から,抑えつけようとする,絶え間のない痙攣(けいれん)を、極度の神経の興奮を。
このようなことがあることは、私の予期していたところであった、彼の手紙からだけでなく、回想してみることによって,子供のころの特徴を、そして結論によって,推論される,彼の特異な身体の順応性と気質とから。
彼の挙動は、交互になった,快活にも遅鈍にも。
彼の声は変ったりした、急に,震えてはっきりしない声から、(生気が、思われる時の,まったく休止していると、)声に,あの力のある歯切れのよい、あの唐突な重々しいゆったりとした洞声(うろごえ)の発音、重みのある釣(つ)り合いのとれた完全に調節された喉頭音(こうとうおん)に,認められるような,酔いつぶれた酔っ払いや手がつけられない阿片喫煙者などの,時の,極度の興奮状態にある。
このような調子で彼は語った、目的や,私の来訪の、彼の熱心な願望や,私に会いたいという、慰(なぐさ)めなどについて,彼が期待している,私に,与えるだろうと,彼に。
彼は話しだした,少し詳しく,考えていることを,性質であると,自分の病気の。
それは、彼は言った、体質的な家系が継いできた病であり、それである,彼も絶望している,見出(みいだ)すことについては,治療法を。
もっともただの神経の病気で、彼はすぐつけ加えた、それは必ずすぐに消え去るだろうと。
その病気はあらわれた,多くの異常な感覚となって。
そのなかの二、三は、彼が詳しく話しているあいだに、たいへん興味を感じさせ,また当惑させた,私を、あろうが、おそらく、その言葉づかいや、全体の調子が,話しの、効果を与えたのであろう。
彼はひどく悩まされていた,病的な鋭さに,いろいろな感覚の。
もっとも味のない食物だけが食べられた。彼は着ることができた,衣服だけを,特定の生地(きじ)の。香りは,すべての花の、胸苦しく感じられた。
彼の眼は苦痛だった,弱い光線にさえ。だけであった,ある特殊な音、それは絃楽器(げんがっき)の音だった,起させない音は,彼に恐怖の念を。
ある異常な種類の恐怖の、私は分かった,彼が虜(とりこ)になっているのが。
「僕は死ぬのだ」彼は言うのだった。
「僕は死なねばならんのだ,この惨(みじ)めな愚かしいことで。こうして、こうして、ほかのことではなく、死ぬことになるだろう。
僕は恐れる,起ることを,未来に、そのことをでなく、その結果を。
身震(みぶる)いがする,考えただけで、何かを、どんなに些細な出来事でさえも,影響することは,この堪えがたい動揺に,心の。
僕は、実際、厭(いや)なのではない,危険が、厭なんだ,ただその絶対的の結果、恐怖が。
こんな弱々しくなりはてた、こんな哀れな有様で、感ずるのだ,時が遅かれ早かれ来るのを,僕が棄(す)てなければならない,生命も理性もともに,闘いながら,あのもの凄い幻影と,『恐怖』という。」私は気付いた,その上、ときどきの、そしてきれぎれの曖昧(あいまい)な暗示によって、もう一つの奇妙な特徴に,彼の精神状態の。
彼は縛りつけられていた,ある迷信といっていい想念に,住居に関して,彼が住んでいる,そこから長年のあいだ,一歩も出ることをせずに、
影響について,ある想像的な力の、伝えられた,言葉で,あまりに漠然とし過ぎていてここでもう一度記すことの出来ない、
影響について、いくつかの特異性が,あの形状と実質のなかにある,先祖からの屋敷の、してきた、長いあいだの黙認によって、彼は言った、及ぼして,彼の心に、ある効果を、すがた形が,灰色の壁と塔とうす暗い沼の、それに向かってそれらが見下ろしている、なった、とうとう、もたらすように,精神(モラル)の在り方に,彼が存在することの。
彼は認めた、しかし,ためらいながらだったが、大部分は,その特殊な憂鬱の,このように悩ましている,彼を、原因として挙げることが出来ると,もっと自然なもっと明らかな根源を、きびしい長い続いている病気、現実に明らかに迫っている死,深く愛している妹の、ただ一人の伴侶(はんりょ)であり,長年のあいだ、最後にして唯一の血縁である,この世の。
「彼女が死ねば」と、彼は言った、痛ましさで,私の忘れることの出来ない。「残すことになる,僕を、(男,なんの望みも持たない虚弱な)、最後の者,旧(ふる)いアッシャー一族の」
彼がこう話しているあいだに、マデリン嬢は、(それが彼女の名前だった)、ゆっくりと通り,奥の方を,部屋の、そして、気が付くことなく,私のいることに、姿を消した。
私はじっと見つめた,彼女を、非常な驚きの感覚をもって,一緒になっている,恐怖も。しかし、どうしてか私は出来ないのである,説明することが,そのような感情を持ったことを。
感覚が,茫然自失の、圧倒した,私を、私の眼が追うとき,彼女の去ってゆく歩調を。
扉が、遂に、閉じて彼女を見えなくすると、私の視線は向けられた,本能的に熱心に,顔に,その兄の、
が、彼は埋めていた,顔を両手のなかに。そして私はただ認めることが出来た、もっとすごい色が,普通の青白い色より、拡がっていて、痩(や)せおとろえた指に、指のあいだから、漏れて流れているのを,おびただしい熱い涙が。
病は,マデリン嬢の、ずっと当惑させてきていた,技巧をもってしても,彼女の医師たちの。
慢性の無感覚、漸進(ぜんしん)的な衰弱,人格の、頻繁(ひんぱん)におこる短期間の発症,ある種の強直症の症状の、それらが珍しい病状であった。
これまで彼女はしっかりと耐え忍び,苦痛に,自分の病気の、就くことはなかった,けっして床(とこ)に、
しかし、遅くに,夕方の,私が着いた日の,この家に、彼女は負けてしまった(彼女の兄が語った,私に,その夜,言いようもなく興奮して)屈服させる力に,病魔の。
そして、私は気付いた、ちらりと見たのが,私がそうして,彼女の姿を、恐らくなるだろう,最後のものと,私が見る、彼女は、少なくとも生きているうちに、見られぬだろう,私は,二度とは。
四、五日間は,その後の、彼女の名は口にされなかった,アッシャーも私も。そのあいだ、私は忙しかった,熱心な努力に,やわらげようとする,憂鬱(ゆううつ)を,友の。
私たちは画(え)を描き、本を読み,ともに、あるいは聞いた,夢の中にいるように,奇怪な即興曲を,彼の表情豊かなギターの。
こうして、より親しくより親密になることが、そうさせた,私を,もっと分け隔てなく、奥へ入って行かせた,彼の心の、さらに痛ましくも私は分かることになった,無駄であることが,企てのすべてが,引き立てようとする,心を、その心からは暗黒のものが、あたかも固有の明白な特質であるかのように、注ぎかかるのであった,あらゆる事物の上に,精神界と物質界との,一筋の休むことのない放射された線となって,陰鬱の。
私はずっと心にとめているだろう,記憶を,多くの重苦しい時間の,私がこうして過した,ただ二人だけで,主人と,アッシャー家の。
しかしうまくいかないだろう,どんなに試みても,伝えようと,概念を,正確な性格の,研究あるいは仕事の,彼が誘い,私を、あるいは導いてくれた。
興奮したきわめて病的な想像力が、投げかけていた,硫黄のような光を,すべてのものの上に。
彼の長い即興の挽歌(ばんか)は、鳴りひびくであろう,永久に,私の耳のなかに。
その他のものでは、私は残している,痛ましく,心に、ある奇妙にひねくれた複雑にしたもののことを,あの奔放な詠唱を,最後のワルツの,フォン・ウェーバーの。
絵からは、そこには彼の精緻(せいち)な空想が立ちこめ、なっている,一筆ごとに,曖昧(あいまい)さのあるものに、それに私は戦慄した,さらにゾッとして、なぜか戦慄した,理由は分からずに、
それらの絵から、(ありありと,それらの景物はいまも浮ぶ眼の前に)私は無駄な努力に終るであろう,ひき出そうとするのは,一部分以上のものを,示そうとしても,領域内で,書いた文字の。
極端な単純さによって、飾りがないことによって,彼の構図の、彼は惹きつけ、圧倒した,人の注意を。
もし人があるとすれば,画に描いた,観念を、まさにその人であった,ロデリック・アッシャーこそ。
私には,少なくとも、状況で,そのとき私を包んでいる、湧き起った,この純粋な抽象観念から、この憂鬱症患者が、描きあらわそうとした,彼の画布(カンヴァス)の上に、緊張感が,堪えがたいほどの畏怖(いふ)の、その影すら感じなかったほどの,熟視してさえ,たしかに灼熱(しゃくねつ)的だがあまりに具象的な幻想を,あのフュウゼリの。
一つについて,この幻想的な概念の,友の,持っていない,それほど厳密にその抽象精神を、表すことが出来るかもしれぬ,朧(おぼろ)げながらであるが,言葉で。
小さな画が、示していた,内部を,非常に長い矩形(くけい)の窖(あなぐら)または地下道(トンネル)の,低い壁のすべすべで白い切れ目もなく模様もない。
副次的に描かれた部分が,この構図の、よく伝えていた,その想定を、この洞穴(ほらあな)があるという,たいへんに深いところに,地表の下の。
出入り口は見当たらず,どの部分にも,この大きな広がりの、篝火(かがりび)やそのほかの人工的な光源も見えなかった、それなのに、溢(あふ)れが,強烈な光輝の,あまねく行き渡り、ひたしていた,全体を,不気味で異様な輝きのなかに。
私はさきほど述べた、あの病的な状態について,聴覚の神経の,している,あらゆる音楽を堪えられないものに,この受難者にとって,除いては,ある効果を,絃楽器による。
それは、おそらく、せまい範囲が、それにこのように限定した,彼自身を,ギターだけに、それが生みだす力を与えた,大いに,あの幻想的な個性的なものを,彼の演奏に。
しかし、熱情的な流暢(りゅうちょう)さは,彼のアンプロンプチュ(即興曲)の、できない,同じに説明づけられることは。
そうであったに違いないし、そうであったのだ、その音調も,同じく,歌詞と,彼のもの狂おしい幻想曲の、(というのは、彼はしばしば、口ずさんだから,自分で,韻を踏んだ即興の歌詞をつけて、)結果であったのだ,強烈な精神の沈着さと集中の、それは私が前に言及したように、見られる,特別の瞬間にだけ,最高の人為的に作られた興奮の。
歌詞を,一つの,そのような狂詩曲の、私はたやすく覚えてしまった。
私が、おそらく、より強い印象を受けたのは,それに、彼が聞かしてくれた時に,それを、だからであろう、その底流や神秘的な流れのなかに,その詩の意味の、私は思った,私は知ったように,初めて,十分に意識していることを,アッシャー自身が,ぐらついていることを,彼の高い理性が,理性の王座の上で。
その詩は,題の,『魔の宮殿』という、だった、だいたい,正確ではないとしても、次のようなもの。
一
緑いと濃きわれらが渓谷(たに)に、善き天使らの住まえる、かつて美(うる)わしく宏(おお)いなる宮殿(みやい)、輝ける宮殿、そびえ立てり。
王なる「思想」の領域に、そは立てり!最高天使(セラフ)もいまだ、広げたることなかりき,そが翼を,館(やかた)にさえ,美しさ遠く及ばぬ。
二
旗,黄色の栄(はえ)ある金色の、そが甍(いらか)の上に躍りひるがえれり。(これ、すべてこれは、ことなりき,遠き昔の)軟風(なよかぜ)に,戯(たわむ)れそよぐ、いとも好(よ)きその日、塁(とりで)にそいて,羽毛かざれる蒼白き翼ある香(かおり)、通り去りぬ。
三
さまよいし人々は,この幸(さち)ある渓谷(たに)を、輝く二つの窓より見たり、精霊らの舞えるを,音(ね)につれ,琵琶(びわ)の調べととのえる,王座をめぐりて、その王座には坐(ざ)せり、(紫の御子[ポーフィロジーニ]!)威厳もて,その光栄(ほまれ)にふさわしき、主(あるじ),この領土(くに)の、見えたり。
四
またすべて真珠と紅玉とをもて、燦(きらめ)けり,美わしき宮殿の扉(とびら)は。その扉より来たりぬ,流れ流れ流れて、閃(ひらめ)きつつ,永遠(とわ)に、一群(ひとむれ),「こだま」の、そが楽しき務(つとめ)は、ただ歌いたたえるのみなりき、声をもて,いとも妙(たえ)なる、才と智(ち)を,そが王の。
五
されど魔もの、衣(ころも)きて,悲愁(かなしみ)の、襲いぬ,この王の高き領土(くに)を、(ああ、悲しきかな、暁はふたたび明くることあらじ,彼(か)が上に、荒涼たり!)かくて、めぐりて,彼の住居(すまい)を、栄光も,輝き花咲けり、なりにけり,おぼろなる昔語りと、遠き世の,埋もれ果てし。
六
かくて旅ゆく人々は,今この渓谷を、赤く輝く窓より、見るなり、大いなる物影(ものかげ)の、動けるを,狂い、調べみだれたる楽の音につれ。片や、速き魔の河の流れのごとく、また蒼白き扉くぐりて恐ろしき一群走り出(い)で,永遠(とわ)に、高笑いす、されど、もはや微笑(ほほえ)まず。
*
私はよく覚えている、さまざまの暗示が,生じた,この歌謡(バラッド)から、導き,私たちを,一連の考えに、そこで、明らかにすることが出来たことを,一つの意見を,アッシャーの。それをここに述べるのは、ということよりも,それが新奇なためと、(他の人々は考えている,そのように、)ことからである,執拗(しつよう)だった,彼が主張することに,それを。
その意見というのは、大体において、それであった,知覚力についての,すべての植物の。
しかし、彼の異常な妄想のなかで、この考えはさらに大胆な性質のものとなり、及んでいた、ある条件のもとでは,世界にまで,無機物の。
私は知らない,言葉を,説明する全部を、あるいはひたむきな心酔ぶりを,彼の信念の。
その信念は、しかし、関連していた、(前にも述べたように)灰色の石と,家の,彼の先祖代々の。
諸条件は,その知覚力の、ここに存在してきた、彼は想像していた、十分に満たされている,方法のなかに,配置の,これらの石の、
方式のなかに,石の配置の、同様に,配置のなかに,多くの菌の,蔽(おお)っている,石を、朽ちた木などの,あたりに立っている、
とりわけ、長いあいだ乱されずにそのまま続いてきたことで,この配置が、二重に見えていることで,静かな水面に,沼の。
その証拠は、証拠は,知覚力があることの、認められるという、彼の言うところでは、(私はここでぎょっとしたが,彼が話したとき)緩やかな、しかし確実な凝縮に,佇(たたず)まいの,それら自身から発している,沼の水や壁のあたりの。
その結果は、現われているのだと、彼はつけ加えた、沈黙してはいるが、執拗な恐ろしい影響となって、幾世紀ものあいだに、形成し,運命を,彼の一家の、
してしまった,彼に,私がいま見るような,彼を,つまり現在の彼に。
このような見解については批評を必要としない、だから私はとくに書かない。
私たちの書物、それらの書物は、長年のあいだ,形成してきた,小さくない部分を,精神生活の,この病人の、であった、想像できるように、まさに合っているものであった,この性格と,幻想する。
二人は読みすすんだ,一緒に,というような著作を、『ヴェアヴェルとシャルトルーズ』,グレッセの、『ベルフェゴール』,マキャヴェリの、『天国と地獄』,スウェデンボーグの、『地下の旅,ニコラスクリムの』,ホルバークの、『手相学』,ロベール・フルードやジョン・ディダジーネやデ・ラ・シャンバーの、『旅,青き彼方(かなた)への』,ティークの、『都,太陽の』,カンパネエラの。
愛読の一巻は、小さな八折判(オクテーヴォ)であった,『ディレクトリアム・インクィジトラム』の,ドミニック派の僧アイメリック・ド・ジロンヌの。また三、四節は,ポンポニウス・メラのなかの、アフリカンセイターやイージパンについての、それらをアッシャーは耽読(たんどく)していた,夢想し,何時間も。
彼の大いなる喜びは、しかし、熟読することであった,非常に稀で珍しい本を,四折判(クオート)ゴシック字体の、祈祷書(きとうしょ),ある忘れられた教会の、『ビジリエ・モートォラム・セカンダム・コラム・エクレシエ・マグンチナエ』を。
私は考えないではいられなかった、奇怪な儀式や,この書物にある、それが与えそうな影響について,この憂鬱症患者に。すると、ある晩、告げてから,私に,唐突に、マデリン嬢はもうこの世にはいないことを、
彼は述べた,意向を,納めておきたいという、彼女の亡骸(なきがら)を,二週間,[先だって,最終の埋葬に]一つに,たくさんある窖(あなぐら)の,礎壁のなかに,この建物の。
現実の理由は、しかし、元となっている,この奇妙な処置の、ことだった,私には思えない,無遠慮に意見を言うべきことには。
兄として、なったのは,この決心をするように、(彼が語ったところでは,私に)考えたからであった,たいへん変った性質のものであると,病気が,亡くなった人の、差し出がましく熱心な探究の申し出があること,彼女の医師の側からの、そして遠い吹きさらしの地にあることを,埋葬場所が,この一家の。
私も否定しない、私が思い出したことを,陰険な容貌(ようぼう)を,男の,私が出会った,階段のところで,日に,私が到着した,この家に、
私は望まなかったのを,反対することを,私が思うことに,せいぜい害もなく、そして決して不自然でもない用心と。
頼みで,アッシャーの、私は実際に手伝った,彼を,準備を,この仮りの埋葬の。
遺骸(いがい)は棺に納められ、私たちは二人きりで運んで行った,それを,その安置所へ。
窖(あなぐら)は,置いた,それを、(それは長いあいだ開けずにあったので、持っていた灯り火は、なかば燻(くすぶ)り,その息づまる空気のなかで、機会は殆どなかったが,あたりを調べてみる)小さくて湿っぽくぜんぜん手段がなかった,入ってくる,光線の、あった,ずっと深いところに,真下の,その部分の,建物の,そこに私の寝室の部屋がある。
それは使用されていた,明らかに,遠い昔の封建時代には、もっとも悪い目的に,地下牢(ちかろう)という、そして、のちの時代には、貯蔵所として,火薬かまたは他の高度に可燃性の物質の、一部と,その床(ゆか)の、内面の全部とが,長い拱廊(きょうろう)の,そこを通って私たちが着いた、念入りに蔽われていたので,銅で。
扉も,巨大な鉄製の、のであった,これも同様に覆われていた。
その途方もない重さは、たてた,異様に鋭い軋(きし)りの音を,それが廻る時には,蝶番(ちょうつがい)のところを。
置いてから,私たちの悲しい荷を、安置台の上に,この恐ろしい場所のなかの、二人は少しずらした,横に,まだ螺子(ねじ)でとめてない蓋を,棺の、覗いてみた,顔を,入っている人の。
驚くほど似ていることが,兄と妹との、そのとき初めて引いた,私の注意を。するとアッシャーは、察したらしく,おそらく,私の考えを、呟(つぶや)いた,二言三言、その言葉で私は知った,死者と彼とは双生児で、共鳴が,殆ど気付かれないような性質の、常にあったと,二人のあいだには。
私たちの視線は、しかし、とどまってはいなかった,長くは死者の上に、私たちは見ていられなかったからだ,彼女を,恐ろしさを感じずに。
その病気は,このように棺に入れてしまった,姫を,青春の盛りに、残していた,常として,すべての病の,はっきりした硬直症疾患の性質の、ようなものを,かすかな赤みの,胸と顔とに、あの疑っているようなためらいの微笑を,唇に,実に恐ろしい,死人の場合には。
私たちは元に戻し、螺子(ねじ)をとめ,蓋の、そして、しっかり閉めて,扉を,鉄の、たどり着いた,やっとの思いで,あまり変らない陰気な部屋へ,上の方の,この館の。
そのようにして、幾日かが,痛ましい悲嘆の、過ぎると、目立った変化が現われてきた,徴候として,精神異常の,友の。
彼のいつもの態度は消えてしまった。
いつもの仕事もうち捨てられ、あるいは忘れ去られた。
彼は歩きまわった,部屋から部屋へと、せかせかした乱れているあてのない足どりで。
蒼白(あおじろ)い顔色はなっていた,なれる限りの、一層もの凄い色合いに、しかし、輝きは,彼の眼の、まったく消え去ってしまっていた。
かつて時おり聞かれたしゃがれ声は、もはや聞かれなくなって、おくびょうな震え声が,まるで極度の恐怖からきている、いつも特徴となっていた,彼の話しぶりの。
しばしば有った,実際,私が考える時が、彼の絶えず乱れている心が、闘っていて,なにか重苦しい隠しごとと、打ち明けるために,それを、取り出そうともがいていると,必要な勇気を。
しばしば、再度、私は決めてしまうこともあった,すべてを,単なる説明のつかない奇行と,狂気による、というのは、見たからである,彼がじっと見つめているのを,空間を,長時間,態度で,非常に注意深い,耳をすましているように,なにかの聞えもせぬ物音に。
不思議なことではない,彼の様子が恐れさせ、それが感染したとしても,私に。
私は感じた,忍びよってくるのを,自分に、ゆっくりだが確実に、強烈な影響が,彼自身の幻想的なしかし力強い妄想の。
それは、とくに、床(とこ)についたときだった,夜遅くに,七日目か八日目の,納めてから,マデリン嬢を,地下牢のなかに,私が経験したのは,大きな力を,そのような感情の。
眠りはやって来なかった,私の枕辺(まくらべ)に、そして時は刻々に過ぎていった。
私はあせっていた,冷静に払いのけようと,この神経過敏を,支配している,全身を。
私は努めて信じ込もうとしていた、その大部分は,全部ではないとしても,自分の感じていることの、によるものだと,人をうろたえさせる作用に,陰気な家具の,この部屋の、
黒ずんだぼろぼろの壁掛けの、それは、苛(さいな)まれて動いている,息吹(いぶき)によって,つのってくる嵐(あらし)の、揺れ,途切れとぎれに,あちらへこちらへ,壁の上を、音をたてている,落ち着かない,飾りのあたりで,寝台の。
しかし、その努力も無駄(むだ)だった。抑えがたい戦慄(せんりつ)がだんだん広がって,身体中に、そして、とうとう、坐(すわ)った,私の心臓の真上に,一体の夢魔が,ただ訳もなく恐ろしい。
振い落して,これを,喘(あえ)ぎもがきながら、私は身を起し,枕の上に、そして、じっと見つめながら,真剣に、真っ暗闇(くらやみ)のなかを,部屋の、耳をそばだてた、そうした理由は分からないが,ほかに,本能の力がそうさせたというより,私に、
なにか低いはっきりしない音に、聞えてきた,合い間合い間に,嵐の,長いあいだをおいて,どこからとも知れぬところから。
圧倒されて,はげしい感情に,恐怖の、訳の分からぬしかも堪えがたい、私は着物をひっかけ,急いで、(気がしたから,私は寝られないという,もう,その夜は、)そして努めた,奮起させるように,自分を,この哀れな状態から,自分が陥っている、足早に歩くことで,あちこちと,その部屋の中を。
数回も歩き廻らないうちに,この様にして、軽い足音が,かたわらの階段の、引いた,私の注意を。
私にはすぐ分かった,それが足音であることが,アッシャーの。
間もなく、彼は叩き,静かに,扉を、入ってきた,手にして,ランプを。
その顔は、いつものとおり、屍(しかばね)のように蒼ざめていた、が、そのうえに、ようなものがあり,狂気じみた歓喜の,彼の眼には、明らかに抑えていた,ヒステリーの発作を,挙動全体では。
その様子はぎょっとさせた,私を、が、どんなことも望ましいので,孤独よりは,私がいままで長く辛抱してきた、私は迎えさえした,彼の出現を,一つの救いとして。
「で、君は見なかったのだね,あれを?」
彼は言った,ふいに、じっと見廻したのち,彼の周りを,しばらく無言のまま。
「君はあれを見なかったんだね?しかし、待ちたまえ!見せてあげよう」
そう言って、念入りに蔽(おおい)いをして,彼のランプに、彼は駆けよって,一つの窓のところに、サッとそれを,開けはなった,嵐に向って。
荒れくるった強さは,吹きこんでくる烈風の、吹き上げそうだった,私たちを,床(ゆか)から。
それは、実に、荒々しくしかし厳かで美しい夜だった、夜であった,たとえようもないほど奇妙な,その怖さと美しさで。
旋風がまさに集中しているらしく,その力を,この館の周辺に、頻繁(ひんぱん)で急激な変化があった,方向に,風の。
その非常に濃く立ちこめた雲も、(それは垂れ込めていた,低く,押し潰さんばかりに,いくつかの小塔を,この館の)妨げはしなかった,私たちが気付くことを,生きものらしいものの速さであると、その速さでそれらは飛んでいた,疾駆して,四方八方からそれらが向き合って、飛び去ることはなく,遠くへ。
私は述べた、それの非常に強い濃度も妨げなかったと,私たちが気付くことを,それに、しかし、ちらりとも見えなかった,月や星は、なかった,きらめきの強さも,稲妻の。
しかし、下面が,巨大な塊の,立ち騒いでいる蒸気の、同様に,あらゆる地上の事物と,私たちのすぐ周りにある、輝いていた,奇怪な光のなかで,ほのかに明るくはっきりと見えるガス状の放出物の、垂れ込め、包んでいる,屋敷を。
「見ちゃいけない、君には見させない,これは!」
私は言った,身震いしながら、アッシャーに、引きもどす時に,彼を,かなり力を込めて,窓ぎわから椅子の方へ。
「これらの光景は,迷わせている,君を、ただの電気による現象なのだ,珍しくもない、それとも、かもしれない,これらはその凄い原因がある,ひどい毒気に,沼の。
閉めようじゃないか,この窓を。空気は冷たいし良くない,君の体には。
これは一つだ,君の好きな物語の。私が読むから、君は聞いていなさい。そして明かすことにしよう,この恐ろしい夜を,一緒に」
古めかしい書物は,私が取りあげた、であったが,『狂乱の出会い(マッド・トリスト)』ラーンスロット・キャニング卿の、しかし私が言ったのは,それを,好きな書物と,アッシャーの、悲しい冗談で言ったのだ,真面目さでよりも。
なぜかといえば、実際のところ、殆どなかったからである,その野暮で貧しい想像力の冗漫さの中には、興味を持たせることの出来るものは,崇高で霊的な観念性に,私の友が持っている。
それは、しかし、唯一(ゆいいつ)の本であったし,すぐ手近にある、また私は抱いていた,ぼんやりした期待を、興奮が,今かき乱している,この憂鬱症患者の心を、見出すかもしれないという,慰(なぐさ)めを、(文献は,精神錯乱の、満ちているのだから,同様な異例で)極端に馬鹿げている話のなかにさえ,これから読もうとする。
私は判断してよいだろうから,実際,異様に神経を張りつめた様子から,生き生きとして,それに彼が聞き入っている、あるいは聞き入っているように見える、語句に,その物語の、私は自分で喜んでもいい訳であった,成功したことを,自分のもくろみの。
私は読みすすんだ、あの良く知られている箇所へ,その物語の、エセルレッドが,主人公の,この本(the Trist)の、試みたが駄目だったので,おだやかに入ろうとして,住居に,隠者の、なんとか入ろうとする,力ずくで。
ここは、それは知られている、文句は,物語の、このようになっている。
「さて、エセルレッド,生れつき勇猛果敢な、今やいっそう力も強き,そのうえに、力強さもあって,酒の,先ほど飲みたる、もはや待ちかねて,談判するを,隠者との、男ら、まことに、強情にして邪(よこしま)な性格の、だが、覚えて,雨のあたるを,肩に、恐れ,到来を,嵐の、振り上げて,その鎚矛(つちぼこ)を,ためらわずに、そして、いくつかの強い叩きで、すぐにも余地を作った,厚板に,扉の,籠手(こて)はめた手の入るほどの。かくて、そこより引けば,力をこめて、扉は破れ、割れ、微塵(みじん)に砕けて、音は,乾きたる空洞(うつろ)に響く木の、警戒を発し反響せり,森中に」
終りで,この文章の、私はぎょっとして、しばらくのあいだ沈黙した。というわけは、私には気がしたからである、(私はすぐに決めてしまったが,私の興奮した想像がだましたのだと,私を)、私には気がしたから、どこかずっと遠いところから,この屋敷の、聞えてきたような,かすかに,私の耳に,それかもしれないものが,まったく同じの,響きの、反響に,(しかし、抑えつけられた鈍いものだったが,たしかに)まさしく破れ割れる音の,ラーンスロット卿が詳しく書き記している。
それは、疑いもなく、偶然の一致が、惹きつけたのであった,私の注意を。
というのは、最中(さなか)にあっては,がたがた鳴る音の,窓枠(まどわく)の,開き窓の、いつもの入り交じっているいろいろの音の,なおも吹きつのっている嵐の、
その物音は、その音に、なかったから,たしかに、注意をひいたりおびえさせたりする,私を。
私は読みつづけた,物語を。
「しかるに、優れた戦士エセルレッドは、いまや入り,扉のなかに、はげしく怒り驚愕(きょうがく)した、見えないことに,影すらも,かの邪(よこしま)なる隠者の。
しかし、その代わりには、一頭の竜(りゅう)が,鱗(うろこ)のある巨大な姿の、炎の舌を持っている、蹲(うずくま)って護っていた,宮殿の前で,黄金の、床(ゆか)をしいている,白銀(しろがね)の。そして、そこの壁には、掛かっていた,楯(たて)が,輝いている真鍮(しんちゅう)の、次の銘(めい)が記されていた。
ここに入りきたる者は征服者であった。殺す者は,この竜を、この楯を彼は得る。
されば、エセルレッドは振り上げ,彼の鎚矛(つちぼこ)を、打ちおろした,頭上に,竜の、竜は倒れ,彼の前に、吐きあげて,その毒ある息を、叫び声をあげたるが,いとも恐ろしくもまた鋭きさらに突き刺すばかりの、さすがのエセルレッドも、塞(ふさ)ごうとしたほど,耳を,両手もて,恐ろしき声に,竜の、かかる声は世に聞きたることもなかりき」
ここで再び、私は沈黙した,突然、今度は感じながら,はげしい驚きを。というのは、なんの疑いもなかったからだ,それは何かについて、その瞬間に、私が本当に実際に聞いたことは、(どちらの方向からそれが進行してきたか私は言うことは出来なかったが)低い明らかに遠いしかし鋭い長びかせているまったく異様な叫び声あるいは軋(きし)る音、正確に似ているそのもの,私の想像がすでに心に出現させていたものと,竜の不気味な叫び声として,書いたように,この物語りの書き手が。
圧倒されてしまっていたが,私はその時たしかに、出会って,この二回目のそしてもっとも異常な暗合に、かずかずのせめぎ合う感情によって,それは驚きと極度の恐怖が主だったものだった、私は保つようにしていた,十分な心の平静さを,避けるための,興奮させてしまうのを,何かの見解を述べることによって,過敏な神経を,私の友の。
私はともあれ確信がなかった,彼が気づいていることに,音に,例の、
けれども,たしかに,奇妙な変化がこの数分間に起っていたけれども,彼の態度には。
位置から,私に向きあった、彼は少しずつ回していた,彼の椅子を,腰かけているように,彼の顔を向けて,扉の方に,その部屋の。
だから、私はわずかに見ることができた,彼の顔を,私は見たけれども,彼の唇(くちびる)が震えているのを,まるで彼が呟(つぶや)いているように,聞きとれない声で。
彼の頭はうなだれていた,彼の胸の方へ、しかし私には分かった,彼が眠っているのではないと、大きくしっかり見開いていることから,眼が,私がちらりと見た時に,それを,横顔で。
動きも,体の、同じく、一致していないことだった,この考えとは。というのは、彼は揺すっていた,左右に静かなだが変らない同じ揺れかたで。
素早く見てとってからこれらをみんな、私は再び読みつづけた,物語を,ラーンスロット卿の、それは次のように続いていた。
「かくて、戦士は,今や免(まぬが)れた,恐ろしき怒りから,竜の、思い浮べ,かの真鍮(しんちゅう)の楯(たて)を、解(と)こうとして,妖術(ようじゅつ)を,その上に記されている、押しのけた,骸(むくろ)を,道より,彼の前の、
そして進んだ,大胆に,白銀の床(ゆか)の上を,城内の、楯(たて)のところへ,壁の上なる。楯はまことに待つことせず,彼の来て取るを、だが、転がり落ちたのだった,彼の足もとの白銀の床(ゆか)の上に、いとも大いなる恐ろしく鳴りひびく音をたて」
この言葉が、洩(も)れたかどうかの,私の唇から、その時、まるで一つの楯が,真鍮の、実際にそのとき落ちたかのように,轟然(ごうぜん)と,床(ゆか)の上に,銀の、私は気付いたのだ,はっきりした、うつろな、金属性の、ガランガラン鳴る、しかし明らかに押し包んだような反響音が。
すっかり仰天(ぎょうてん)し、私は跳び上がった。が、規則的な体をゆする運動は,アッシャーの、少しも乱れなかった。
私は駆けよった,椅子のところへ,彼がかけている。
彼の眼は集中していた,じっと,彼の前方を、そして彼の全部の顔面は、表情が支配していた,石のように硬(こわ)ばっている。
しかし、私が置くと,手を,彼の肩に、起った,はげしい戦慄(せんりつ)が,彼の身体全体に。
陰気な微笑が震えた,彼の唇のあたりで。
そして私は見た、彼が話すのを,低い早口のとぎれとぎれの呟きで、まるで知っていないかのように,私がいるのを。
身をかがめて,ぴったりと,彼の上に、私はやっと夢中に聞きとった,恐ろしい意味を,彼の言葉の。
「聞えない,あれが?いや、私は聞える,それが、前から聞えていた,それを。
長い、長い、長いあいだ、何分も、何時間も、幾日も、まえから聞えていたのだ、しかし、僕は、しなかった、おお、憐(あわ)れんでくれ、なんと惨(みじ)めなやつだ、僕は!僕はしなかった、僕は思いきって言えなかったんだ!僕たちは入れてしまった,彼女を,生きながら,墓のなかへ!僕は言わなかったかい,僕の感覚が鋭敏なことを?いま言うよ、僕は聞いたのだ,彼女の初めての弱々しい動きを,あの棺のなかの。
聞いたのだ、幾日も幾日も前に、だが僕はしなかった、思いきって言えなかった!そしていま、今夜、エセルレッドか、は!は!破れる音,隠者の家の扉の、そして断末魔の叫び,竜の、そして鳴りひびく音,楯の!
それよりも、こう言ったほうがいいのだ、割れる音,彼女の棺(ひつぎ)の、そして軋(きし)る音,鉄の蝶番(ちょうつがい)の,あの地下牢の、彼女がもがいている音,銅張りの拱廊(きょうろう)のなかで,アーチ型通路の、と!
おお、僕はどこへ逃げよう?彼女はやって来ないだろうか,ここへもうすぐ?急いで来るのではないか,責めに,僕を,僕の早まった仕業について?僕には聞えていないのか,彼女の足音が,階段を上がっている?
僕は分かってはいないのか,重苦しい恐ろしい鼓動(こどう)が,彼女の心臓の?気違いめ!」
こう言うと彼は激情に駆られて跳び上がった、甲高(かんだか)い声で言った,一語一語を,まるで必死の努力で,彼が臨終に際しているかのような。
「気違いめ!いいか、彼女はいま立っているのだ,その扉の外に!」
まるで、超人的な力に,彼の絶叫の、あったかのように,呪文(じゅもん)の働きが、その大きい古ぼけた扉の羽目板は,言っている彼が指差した、ゆっくりとうしろへ開いた、その瞬間に、重々しい黒檀(こくたん)の口を。
それはやったことだった,吹きこんでくる疾風が、が、そのとき、扉の外には、まさしく立っていたのである,背の高い屍衣(しい)を着た姿が,マデリン嬢の,アッシャー家の。
血がついていた,彼女の白装束(しろしょうぞく)には、跡があった,激しくもがいた,至るところに,痩(や)せおとろえた体の。
一瞬、彼女は身震いしながら、ぐらついていた,左右に,敷居のところで、それから、低い呻(うめ)き声をあげて、ばったりと倒れかかり,部屋のなかの方へと,体に,彼女の兄の、彼女の壮絶な今や断末魔の苦悶(くもん)のなかに、のしかかって倒し,彼を,床(ゆか)に,死体にして、犠牲にした,恐怖の,彼が予想していた。
*
その部屋から、そしてその館(やかた)から、私は逃げ出した,恐ろしさで。
嵐はなおも四方八方吹いていた,怒りくるって,私が気がついた時に,通(とお)っているのに,古い土手道を。
とつぜん、射し込んできた,その道に沿って,一条の異様な光が、
私は振り返った,見ようと、どこから,光が,このように怪しい、発しているのか。ただ巨大な屋敷とその影があっただけだから,私の背後には。
その輝きは、それだった,いっぱいの大きさの沈んでゆく血のように赤い満月の、それはいま輝いていた,ぎらぎらと,通して,以前には殆ど眼につかない亀裂(きれつ)を,私が前に言った,延びていると,屋根から,その建物の、ジグザグの形に土台まで。
私がじっと見ているうちにもその亀裂は急速に広くなった、
吹いてきた,猛烈な一吹きが,旋風の、
その全ての球体が,衛星(月)の、現われた,突然,私の眼前に、
私の頭脳は目まいした,見たとき,巨大な壁が崩れ落ちるのを,真っ二つになって、
起った,長い轟々(ごうごう)たる耳をつんざく音響が,叫び声のような,おびただしい流水の、
そして、深い陰湿な沼は,私の足もとの、呑(の)みこんでしまった,陰鬱(いんうつ)にそして音をたてずに,残骸(ざんがい)を,「アッシャー家」の。
― 終わり ―
今回、「2か国語ページ表示」の英文学(小説)の「翻訳書」の翻訳作業と、原文と訳文のどちらも記載する2か国語ページ表示による編集と、書籍またはブックレットを制作する作業は、それらの費用をすべて負担して、5人以上の、下記しました著書の翻訳・制作に関わっていただくことのできるグループの方々とその出版の関係者によって行っていただきます。今後とも、同じ企画を進めていく予定ですが、本邦はじめてのことでもあり、部分的に実行できない惧れもありますが、また、これだけの説明では、お分かりになりにくいことも多いかと思いますが、少しでも関心をお持ちになりましたら、メールで、お知らせください――6月の半ばごろから、実行してまいりたいと考えています。
エリザベス・ピーターズ(Elizabeth Peters) 著の 12 点
Crocodile on the Sandbank
The Curse of the Pharaohs
The Mummy Case
Lion in the V alley
The Deeds of the Disturber
The Last Camel Died at Noon
The Snake, The Crocodile and the Dog
The Hippopotamus Pool
Seeing a Large Cat
The Ape Who Guards The Balance
The Falcon at the Portal
Thunder in the Sky
ジョセフィン・テイ(Josephine Tey) 著の 10 点
The Man in the Queue
A Shilling for Candles
The Franchise Affair
T o Love and Be Wise
The Daughter of Time
The Singing Sands
The Expensive Halo
Miss Pym Disposes
Brat Farrar
The Privateer
ポール・スコット(Paul Scott) 著の 13 点
The Jewel in the Crown
The Day of the Scorpion
The T owers of Silence
A Division of the Spoils
The Alien Sky
A Male Child
The Mark of the Warrior
The Chinese Love Pavilion
The Birds of Paradise
The Bender
The Corrida at San Feliu
Staying On
After the Funeral
マージェリー・アリンガム(Margery Allingham) 著の 15 点
The Crime At Black Dudley
Mystery Mile
Look to the Lady
Police at the Funeral
Sweet Danger
Death of a Ghost
Flowers for the Judge
Dancers in Mourning
The Case of the Late Pig
The Fashion in Shrouds
T raitor's Purse
Coroner's Pidgin
More Work for the Undertaker
The Tiger in the Smoke
The Beckoning Lady